【609】 思い出の乗務列車56:中央西線~篠ノ井線 荷5043列車(後篇)
荷5043列車の乗務は、中央西線沿線住民であった私としては、駅名どころか駅順をはじめホームの右左、地理的感覚など、さまざまな予備知識があったので、仕事上はたいへん有利でした。しかし、作業衣に前掛、手鉤を持って、檻のような保護棒がついた汚い荷物車の中で働く姿を知り合いに見られる可能性がありました。「見たよ」と言われたことはないので、見られたことはたぶんなかったはずです。しかし、囚人のような姿を見た人は、おそらくびっくりしたことでしょうから、本人に面と向かってそんなことは言えなかったのかもしれません。
以前にご紹介した長谷川宗雄著「動輪の響き」に書いてあることを引用しますが、高山駅のホームで、SLの庫内手の仕事ぶりを見ながら話をしていた乗客の話です。
「あんなに黒く汚れる仕事をする人は、どんな人やろうなあ」
「そうやなあ、ちょっと特別な人達とちがうんかなあ」
「油臭くて真っ黒で、ああいう人達のお嫁さんにくる人あるんやろうかなあ」
「そりゃあ、ああいう人はああいう人で、同じスジがあるで、そういう人からもらうんさなあ」
「そりゃあ、そうやろうなあ」
と、あり、これには苦笑いをする外ないと筆者は書いています。
この手の仕事の内容は、特に鉄道に明るい人でないとわかりせんし、説明も通じにくいものです。一度、同級生に「国鉄で何やってるの?」と聞かれ、小荷物が云々…と説明したところ「な~んや、貨物の車掌か!」とのリアクションがありました。ちょっと違うけど、まあええか…ということにして生返…