【1413】 側線との‘ゆかり’(第20話最終回)
「キハ40で行く車両基地&酒蔵見学列車」の集客は順調で予約がすぐに埋まった。山本課長は坂下に
「ツアーは完売だ。これも君と正ちゃんのおかげだ。どうもありがとう。再就職早々なのに、増収に協力してくれて感謝しとるでな。」
「いや、正一君が動いてくれたからですよ。酒蔵見学は彼の頭の中にもとからあったそうですし。」
「それにしても、長年生きていると不思議なことがあるもんだな。君が正ちゃんのお母さんと面識があったとは知らなかった。」
「ここで車掌をしていなければ、こういうことにはなってませんでしたでしょう。」
「君にここの運転士募集のことで電話したときなあ、たまたま運転士の欠員ができちゃったんだ。補充はJRの定年退職者が手っ取り早いわけだが、運転士の定年退職予定者は大勢おる。そういう中でなぜ君に声を掛けようと思ったかわかるか?」
「さあ、わかりませんが?」
「やっぱり正ちゃんが持っていた写真が決め手だったよ。自分の部下で仕事に定評があった正ちゃんと、自分のJR時代の後輩である君とが1枚の写真に納まっている写真を見せられれば、いやでも君のことは印象に残るさ。そうでなくても、正ちゃんが運転士人生の原点として、子供の頃のJRの制帽かぶった写真をお守りとしていつも乗務手帳に挟んでいるっていうだけでも、ほほえましくていい話じゃないか。あの酒屋の専務さんも言っとったように、あの写真を見て、制帽をかぶせた坂下君からも、その写真を持っている正ちゃんからも鉄道愛が伝わってきた。それで真っ先に君のことを思い出し…