【36】 列車掛6:入換

 列車掛は小駅での入換作業の責任者でもあります。

 引き続き、前回の列車(昭和55年8月8日 東海道本線960列車(大垣~稲沢間))
を例に、ご説明します。

 この日は穂積駅で2両解放、岐阜で19両を連結しますが、小駅である穂積駅での解放作業は列車掛が担当します。

穂積駅の構内配線は次の写真のとおりです。
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列車はプラットホームのある上り本線ではなく、上り1番線に入ります。
到着すると、すぐ駅員と入換作業の打ち合わせをします。作業内容は駅員が、機関士分と複写で2枚作成してくる「入換通告券」によります。
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この通告券の記載事項を要約すると、

入換作業は直ちに開始。
最後部のワフの前で切り離し、3両を上り1番線を53番のポイント(配線図赤丸印)のところまで引き上げます。ポイントを切りかえ、上り2番線にバックして押込みます。
ここでォホキを2両切り離し、機関車は最前部のヨ1両を連結したまま、再び上り1番線へ引き上げます。ポイントを再び切りかえたあと、バックして残してあるワフに連結するのです。

 この作業での要注意事項は、引上制限両数にあります。今回の例のように短い場合はよいのですが、長すぎると引き上げたとき、上り本線側のポイントを支障してしまいます。このチェックは事前に始発駅で現車と貨車解結通知書の確認によって行います。

 このほか当時のマニュアルを読み返しますと、穂積駅の入換作業の注意点として、上り3番線に「架線終端標識」があることが記載されており、これを行き過ぎると架線が無くなってしまうことや、960列車停車中には上り列車が上り本線を2本通過するから気をつけるようにということなどが書かれていました。

 入換作業は列車掛が駅の信号担当と機関士に無線連絡による通告によって進みます。直接切り離しや連結を担当するのは駅の構内担当です。

 無線機による通話内容は列車掛が駅側に進路要求し、機関士側とは引上げや押込み、連結、突放などの誘導をします。
「穂積駅転轍 こちら960列車列車掛。通告 上り1番から上り1番どうぞ」
「960列車機関士、通告、3両もって上り1番53番転轍機まで引上げ どうぞ」といった感じで、駅または機関士は通告内容を復唱し、列車掛はその復唱内容を確認します。
機関士は汽笛を吹鳴して答える場合もあります。これはブレーキ試験の場合も同様です。入換作業が終わると、いったん切り離された部分より後ろまでブレーキが貫通しているか確認のためブレーキ試験を行います。

 これらの作業に不可欠な無線機ですが、機械であれば故障もします。そのときのために、手旗と合図灯は常に携帯していました。無線機が使用できない場合や無線機による入換をしない駅(通常入換作業がない駅など)では手旗で、夜間は合図灯を使用して入換作業やブレーキ試験を行いました。

 さて、穂積駅での入換作業を終え、わずか2両の緩急車だけになった列車は岐阜駅へ向かいます。岐阜駅では入換作業を駅の操車掛が担当するので、列車掛の出る幕はなくて連結する貨車の確認点検のみをすればよいので、勤務時間中ながら停車中は暇でした。連結した車両の内容はこの直前のブログで記したとおりです。

 現在岐阜駅は高架駅ですが、当時は地平にあって、貨物も取り扱っていました。現在は岐阜の貨物取扱は西岐阜駅のすぐ北にある岐阜貨物ターミナル駅に移転しています。

 岐阜で連結があって少し貨物列車らしい長さになった960列車が終点の稲沢に着くと、貨車たちはヤードで方向別に振り分けられ、さらに駅順に並べなおされたのちに、それぞれの行き先の列車に継承されるのです。

この記事へのコメント

  • アルヌー

    しなの7号さん、こんばんは。
    今日から急に、ひぐらしが鳴き始めました。
    この音聴くと、夏が来たなーと感じますね~。

    写真の書類は、普通なら一般の人は絶対に目にする事が出来ない、貴重な物ですよねー!

    僕は今まで、このような書類がある事も知らなかったし、もちろん見た事もありませんでした。

    しなの7号さんのブログを見ていて、いつも思う事ですが、貨物列車を繋いだり切り離したりしながら、正確に走らせる事って、たくさんの人が関わっていて、本当に大変な事だったんですねー!
    2010年07月14日 18:14
  • しなの7号

    アルヌーさん こんばんは。
    いつもありがとうございます。

    ひぐらしですか。今年はまだ聞いてませんね。
    今日の当地は大雨で、降っては、やみ の繰り返しです。

    入換は他の列車の運行に支障しないよう、旅客列車などの合間を縫っての作業です。作業そのものは単純作業ですが、機関士と信号や連結担当の駅職員との共同作業で、各駅で大勢の人が必要で手間がかかる貨物輸送は、切り捨てられるのもやむなしといったところでしょうかねえ。
    2010年07月14日 22:00
  • hmd

    こんばんは^^

    具体的な事例で解説され、なるほど~と思いました^^
    引渡しの書類も意外(?)にも多いのですね。
    現在のコンテナのターミナル間輸送よりも大変手間が掛かっていたとのことですが、
    昭和50年頃まではこの鉄道貨物輸送が日本の大規模物流を支えていたので興味深いです。
    また、入替通告券は駅毎に配線が違いますので、駅に専門の係の方がいたのでしょうか?^^
    2010年07月15日 00:09
  • アルヌー

    しなの7号さん、おはようございます。

    今朝の天気予報で、中部地方に大雨洪水警報が発令されていましたが、しなの7号さんの所は大丈夫でしょうか?

    最近あちこちで水害が凄いので、心配です。
    2010年07月15日 06:45
  • しなの7号

    hmdさん おはようございます。
    コメントありがとうございました。

    鉄道はご承知のように間違えたら後戻りができないことが多く、口頭ですむようなことも書面によっていましたので書類数も多いのかと考えます。
    入換通告券は作成者は駅の担当者ですが、列車掛が入換作業をするような小駅では専門の者でなくいろんな業務を兼務していたものと思われます。あいにく国鉄在職中は駅勤務の経験がなくずっと乗務員職場でしたので、駅の業務について詳細は存じません。申し訳ありません。
    2010年07月15日 07:11
  • しなの7号

    アルヌーさん。おはようございます。
    ご心配おかけしますが、大丈夫です。
    昨日は中央西線も木曽方面での豪雨で一時不通になったりして、しなの号も大幅な遅れで、ローカル列車も少なからず影響を受けていました。渡る鉄橋も濁流の渦でしたが、とりあえず身の回りの被害はありません。
    ありがとうございました。
    2010年07月15日 07:18
  • 貨車区一貧乏

    「緩急車」で検索してましたら、こちらのブログに行き着きました。私も元乗務員で車両検修係~列車掛~廃止~余剰人員~車掌~転職といった職歴です。入換での解結通知書、非常に懐かしかったです。これからブログを隅々拝見させていただきます^^
    2010年12月03日 01:07
  • しなの7号

    貨車区一貧乏様
    はじめまして。
    拙ブログへの訪問のみならずコメントいただきありがとうございました。
    ブログを始めてから、元国鉄職員の方と名乗っていただいた方は初めてです。そのご職歴も乗務員から転職されたということで、親近感をおぼえます。
    お恥ずかしいブログですがよろしくお願いいたします。手元に残った当時の資料を確かめながら思い出に頼って書き進んでいますが、過去記事の更新修正もできず放置してありますので、お気づきの点などございましたらご教示ください。
    ありがとうございました(^O^)/
    2010年12月03日 06:28

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