【60】 車掌5:電車の入換

 列車掛が貨車の入換作業を行っているお話は以前にさせていただきましたが、入換作業は操車掛が配置されていない小さな駅では貨車客車を問わず車掌の仕事です。当然、旅客列車の車掌でも入換作業はありました。

 私の職場での毎日の乗務で定期的に入換作業があった駅は、武豊線の武豊駅、中央本線の土岐市駅と釜戸駅でした。武豊駅では気動車でキハ35。土岐市駅は103系電車、釜戸駅は113系電車でした。

 作業内容は、いずれもそれらの駅が終着となる列車の電留線や側線への転線作業で、翌朝は逆にホームへの転線作業でした。武豊駅では、朝は転線して、そのまま本線に留置してある車両への連結作業も加わりました。朝は3両編成を2編成連結し6両編成として運用し、通勤通学輸送に備えるわけです。

 それでは中央西線釜戸駅での入換を例として作業内容をを見てみましょう。
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当時の釜戸駅の配線です。

 677M列車は釜戸駅下り本線に到着します。ホームで待ち構えていた駅員から入換通告券を運転士の分も含め2枚受領します。
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 駅員はそのまま客車内の忘れ物がないか、乗客が残っていないか、車内点検をします。その間に車掌も駅員とともに最前部へ移動し、運転士に通告券のうち1枚を渡し「8両持って下り本線引上げ。下り1番持ち込み」と作業内容を通告します。

 駅員の点検が終了すると、駅員からの合図でドアを閉めます。ここでの入換作業では貨物列車のように無線機は使用しません。線路の番線を示す数字と上り、下り、連結、前、後、など入換に必要なことがらは、昼間は手旗、夜は合図灯での通告です。
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夜ですから、この場合は合図灯を使用します。赤色・青色を出すことができ、手旗の代わりに夜間使用します。

 入換の内容は貨物と違って毎日同じです。毎日同じ8両編成の電車をホームのある下り本線から留置用の下り1番線に転線するだけのことですから、作業内容は簡単なものでした。

 合図灯でホームの助役に向かって「下り本線から下り本線」への進路を要求します。助役も同じように確認の合図を車掌に送ってきます。進路が開通すると駅助役から「上り本線から上り本線オーライ」との合図灯による合図がきます。転轍機標識が定位を表示しているのを確認します。
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定位ならば紫色の表示が見えるはずです。反位なら橙色です。さらに構内の踏切があるので、その鳴動にも注意が必要でした。

 「上り本線停止目標まで引上願います」と運転士に口頭で通告し、車掌は運転士に対して運転室内で合図灯の青の表示を出すのです。車掌も運転士も同じ運転室内にいるのですが、必ず規則で定められたとおりに合図をします。運転士は汽笛を鳴らし起動しますので、下り本線を留置する下り1番線への転線に支障のないところ(引上目標が線路脇に表示してある)まで合図灯での誘導をし、合図灯で赤表示を出し「アカー」と停止の通告をします。

 本線上の引上目標に停止したら、運転士と車掌はそろって反対側の運転台へ移動します。移動すると運転士はキーを挿し、ブレーキ弁ハンドルを挿すなど運転するための準備をします。その間に車掌は駅のホーム上の助役に向かって、「下り本線から下り1番」の進路要求を合図灯でします。真っ暗な中で、さきほどより距離があるので確認しづらいです。助役の位置は合図灯の灯りだけが頼りです。同様に助役からの確認「下り本線から下り1番オーライ」の合図が確認できたら、こんどは転轍機標識が反位であることを確認をして運転士に、「下り1番線留置目標まで」と通告し誘導するのです。留置目標に停止させればこれで車掌はこの日の作業は終了になります。

 朝は、夜とは全く逆の作業でホームに据え付けます。
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夏場は夜明けが早いので合図灯でなく手旗による作業になりました。
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余談ですが、この手旗を「フライキ」と呼んでいました。「フラッグ」でなく、しかも「キ=旗」がついていて変な言葉ですが、昔からそう呼ばれているようです。

この記事へのコメント

  • アルヌー

    しなの7号さん、こんばんは!
    電車の車掌さんも入れ換え作業に携わっている事を初めて知りました。
    この作業も列車掛を経験しているからスムーズに行う事が出来るんですよね?
    列車を側線に移すだけでも入れ換え通告券の様な書類の受け渡しがあるんですねー!
    細かい手順を遵守して行われるのは確実に安全を確保する為だと思いますが、同じ運転室内でも合図灯を明示しなければならないんですね。
    写真の合図灯はしなの7号さんが実際に乗務で使用されていた物ですか?

    プロにしかわからない細かい作業の工程がわかって、また一つ勉強になりました。
    あの旗はフライキっていうんですね~?
    \(^o^)/
    2010年08月31日 18:29
  • しなの7号

    アルヌー様 こんばんは。
    お忙しい中、コメントいただきありがとうございます。

    貨物の入換作業は通常無線機での誘導でしたので、原始的?!な合図灯や手旗の入換はちょっと勝手が違いました。

    合図灯は国鉄当時は個人貸与ではなく、共用の備品でしたので、乗務が終わると職場の充電器に返却しなければなりませんでした。写真の合図灯は退職後の吹田機関区だかの公開イベントで3000円で買った代物ですが、使用していたものと全く同形のものです。
    2010年08月31日 21:34
  • hmd

    おはようございます^^
    残暑が厳しいですね。

    その日の最後の締めのお仕事ですね^^
    大規模路線は車両区など大きな留置場に引き上げですが、
    昔やローカル線は各駅留置が多いということでしょうか^^
    アナログ的な手法ながら、安全第一の作業手順は機会かされた現在でも重要な意義があると感じました^^
    2010年09月01日 11:00
  • たこすけ

    しなの7号さんこんにちは
    車掌さんの仕事はかなりいろいろな
    仕事があったのですね!?
    今の首都圏の車掌さんはここまでの
    仕事があるのですか?
    当時の車掌さん達に改めて敬礼ですね!
    2010年09月01日 14:24
  • しなの7号

    hmd様 こんにちは^^
    私どもの乗務範囲では、多くの出先での泊り勤務があったのですが、車掌が電車転線の入換に従事するのは本文に記載した3駅だけでした。いずれも小規模の駅です。この釜戸駅も今では電車の留置はありません。それどころか今は夜間は駅員も居らず、寂れまくっています。
    2010年09月01日 17:20
  • しなの7号

    たこすけ様
    こんにちは^^

    今の車掌さんの仕事の内容は私にはわかりません。
    昔ののんびりした「ふた昔前」のお話ですので、
    今の車掌さんはきっと別の意味できつい仕事だと
    思います。
    2010年09月01日 17:24

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