今は、地方ローカル線では短編成のワンマン列車が当たり前で、都市圏でさえワンマン列車が見られます。国鉄当時にはなかったことです。ただ、無人駅は国鉄末期にはかなり増加し、そういった駅からの乗客には車掌が車内で切符を発行し、また下車する乗客からは切符の回収と精算をしていました。このため、無人駅のあるローカル線の乗務では頻繁に車内へ入り、切符の発行と精算をする必要がありました。
これまでの自分のように、貨物列車専業の列車掛だった者からすれば、列車の運転に関する規則のほかに、旅客営業規則・旅客取扱基準規程といった旅客営業に関する規定類の習得が欠かせませんでした。これらの規定は列車掛の養成課程で教え込まれていましたが、修了後列車掛の期間が1年半ほどありましたから、改めて復習する必要がありました。規定類が頭に入っていないと乗客の問いに答えることができません。それより、正しい切符の発行ができません。乗務範囲が広いだけでなく、幹線の東海道本線を乗務エリアに持つ私どもの職場では長距離利用の乗客も多く、特に重要なことでした。
車掌になって、初めて現金を扱うことになりました。そして乗務中は命の次に大切な「車内補充券」を持たされました。以前に少し記しましたが、車内補充券は車内で運賃料金を精算するときの車内切符で、車内で発売するあらゆる切符に対応できるものです。この「車内補充券」は1冊に50枚が綴じられていて、万一盗難や紛失によって、それを悪用されたりしたら、高額の切符で払い戻しをされてしまったり、大変な事態になりますので売り上げの現金とともに取扱いには特に注意を要しました。
左上の事由欄にはいくつもの種類の事由が印刷され、片道切符だけでなく、あらゆる種類の切符の発行に対応していました。事由欄にない種類の切符はすぐ下の空白のところに手書きで記入しました。
この「車内補充券」のほかに、無人駅の多い武豊線と伊勢線のそれぞれ一部の列車の乗務時には「車内片道乗車券」を持ち歩きました。パンチと呼ばれるハサミで発着駅や日付の欄に穴をあける様式でした。
「車内片道乗車券」は無人駅発の片道切符しか発行できませんでした。上段に印刷されているのはすべて当時の無人駅です。これらの駅発の、比較的発売件数の多い着駅を印刷してありました。それ以外の着駅までの片道切符は無人駅発の片道乗車券であろうとも、「車内補充券」を使用しなければなりませんでした。そのため武豊線や伊勢線乗務の場合は「車内片道乗車券」のみを持って乗務することはなく、「車内補充券」もセットで持ち歩きました。現場では「車内補充券」は「車補」と、「車内片道乗車券」は単に「車内券」と呼んで区別していました。
そもそも私にとっては就職後はそれまで小荷物や貨物を相手にしていたのですから、初めての接客業でした。乗務掛も列車掛も接客用の制服は貸与されていたものの、乗務掛は乗務中作業服で過ごしましたし、列車掛もホームのない貨物駅構内を列車点検に歩いているので貸与のズック靴をはいていました。だいたいネクタイ着用で乗務することすらあまりなく、髪も伸ばし放題ボサボサ頭でしたから、車掌になることで身だしなみを整えなくてはなりませんでした。


この記事へのコメント
アルヌー
車掌さんが、車内補充券を命の次に大事にしているなんて、想像もしていませんでした。
たしかに紛失したら大変な事になりますもんね。
それにしても車掌さんの業務は大変な事が多いんですねー。
先日も八高線の車内で車内精算をしている車掌さんを見ましたが、降りる駅を言われてすぐに料金を答えていました。
全てが頭に入っていなくでは出来ない仕事で本当に凄いと思います。
穴をあける車内補充券は懐かしいですねー!
八高線の車内で精算していた車掌さんは、小さな端末から印刷されるレシートの様な切符をお客さんに渡してました。
それにも地模様が入っている様に見えました。
(^o^)/
しなの7号
台風の影響で雨の朝です。
現在の車掌業務は車発機と呼ばれる弁当箱みたいな機械のおかげで、とても便利になったと思います。国鉄時代はいろいろな早見表を持ち歩いて営業キロや運賃料金を足し算していましたので時間もかかるし間違いも少なからずありました。そのお話はまたさせていただきます。
hmd
懐かしいですね^^
車掌さんが駅間走行中の限られた時間内に必死に計算して発行していた風景を小さい頃よく見ました。
なぜだか、昔は経路変更や乗越がとても多かった様な気がします(小さい頃の思い出なので思い違いかもしれません)。
近年の都市部はスイカやイコカなど電子化や合理化で
検札自体が優等列車以外殆ど見られなくなったと思います。
しなの7号
いつもコメントいただきありがとうございます。
最近は中京地区でもTOICAの普及からか知りませんが、車掌が車内をうろつく???ことが少なくなりました。私たちが車掌をやっていたころは検札目的でなくても案内のためや車内温度の確認など他の目的でもこまめに車内に入ったものです。中京地区では経路そのものは限られますので経路変更はあまりないのですが乗り越しは非常に多くありました。
miki
ゆっくり過ごされていますか?
無人駅がまだあるんですね。
のんびりした時間と空間を想像します。
東京近郊も昔は無人駅だったんですか?
しなの7号
当地は今夜も蒸し暑い夜です。
田舎の無人駅でボーっと一人、風景を見ながら過ごすのは意外と楽しいです。東京近郊でも鶴見線とか工業地帯に無人駅がたくさんあるのですが、工場ばかりでなく運河に沿ったところもあって、盆休みなどはのんびりしています。
もちろんお店とかも皆無ですからそれなりに覚悟は要ります(^_^;)
コメントありがとうございました。