国鉄のころ東海道本線に乗務中、愛知御津から三河大塚へ向かう途中で、非常ブレーキがかかりました。
(画像は当該踏切ではありません。)
何かやらかしたな!と一気に減速する列車の最後部乗務員室から外を見ると、踏切内で「とりこ」になった軽自動車が踏切の遮断竿の下にボンネットを突っ込んで、フロントガラスが遮断竿に引っかかって停まっている光景が目の前を流れていきました。現場をすこし通り過ぎてから列車はやっと停車し、運転士からすぐ車内電話で「踏切に自動車おるやろ!捕まえてくれ!」と。
あいにく最後部が現場の踏切を通り過ぎてしまっていて、時すでに遅し。遮断竿は上がってしまい、そのまま軽自動車は逃走してしまったのでした。
「逃げてしまったし、ナンバーもわからんからどうしようもないわ。ぶつかったの?」
「それが、竿に頭突っ込んで止まってたから、ぎりぎりぶつからずに済んだわ」
「じゃあ、このまま発車ということでいいね?」
「はい」
これでブザーで出発合図をして運転再開となりました。
車掌としては運転士と違い前方の様子は判りませんから、てっきり衝突して押し出された結果、軽自動車が遮断竿に突っ込んだ形になったと思ったのですが、軽自動車はもともと遮断竿にフロントガラスに当たった状態で停車しており、遮断竿と通過する列車とのわずかな隙間に自動車の車体が収まる状態だったのでした。
軽自動車だったので、フロントガラスのところに遮断竿が引っかかる格好で止まっても、全長が短かったので、ぎりぎり列車と接触せずに済んだわけで、これが普通自動車であったら衝突していたのでしょう。
このような場合も内部的には「事故」となりますが、「運転阻害」という分類となりそのうちの「踏切支障」という事故種別になったと記憶しています。
この当時の軽自動車は排気量は550㏄。全長は3.2mで今の規格より全長は20cmも短かったので、事なきを得たのだと思います。こういう思い出のある現場は何十年経っても覚えていますし、乗客として乗っていても、その場を通過すると気になるものです。
踏切内で「とりこ」になった場合は、遮断竿を外側へ押し出して脱出すべきで、竿は外側へ押し出せる構造になっています。もっとも竿が折られることも多く、そのまま自動車は逃走ということが多々あるようですので、近年は監視カメラが取り付けられている踏切を見かけます。
「皆様、ただいま踏切内に軽自動車が立ち往生していましたので、急停車いたしました。幸い衝突は免れましたので運転再開いたしました。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけいたしました。踏切では必ず一時停止し、左右の安全をよく確かめてお渡りくださいますようお願いいたします。」
この記事へのコメント
トシ@グッズマニア
運転士氏はさぞかし肝を冷やしたことと思います。
接触せずに済んでホッとしたのも束の間、今度は軽四のムチャな行動に怒り爆発!といったとこでしょうか。
つい先日も名鉄常滑線でクルマが特急と接触、はね飛ばされた所に反対側から来た特急にさらに突っ込まれた事故がありましたが、これもひとつ間違えば鶴見事故のような大惨事になっていた可能性もありました。
乗務側から見れば、踏切事故というのは回避することが非常に困難なものではないでしょうか。
C58364
昔々、単線区間で警報機が鳴り遮断竿が下がり始めているのに、突っ込んでいった乗用車を見たことがあります。
ビックリして見ていると手前の遮断竿がトランクに当たり、反対側の遮断竿がフロントガラスに当たりはじめていましたが無視して行ってしまいました。周りの車は皆あっけにとられていました。遮断竿の破損も警報機の異常も無くてホッとしましたね。
高山線と名鉄線が並走し踏切りを共用している区間で、非常ボタンをイタズラする事件が続発したことがあります。JR東海と名鉄の警報機とでは復帰操作か何か違うのでしょうか。急停車したキハ11の運転士さんは無線でしきりに指令と打合せ何度も操作しておられました。徐行でやって来た名鉄電車も踏切り直前で停車しました。どちらの運転士さんも周りをしきりに探しておられました。
朝の出勤時にやられると本当に困りました。あの時の車掌さんはもっと簡単な車内放送だったと思います。
急制動は何回か経験してますが、急減速の感覚は何回経験してもイヤなものです。
しなの7号
おっしゃるとおりで、あとで怒り爆発。車掌区や詰所で同僚にぶちまけることになります。
名鉄さんの踏切は数が多いし、踏切に線路に並行する道路があったり立地的にコワイところが多いです。かつての美濃町線の踏切は、他所者にはとても怖かったです。
>>C58364様
踏切とは、危険極まりない施設ですね。高山線あたりだと意外と列車の速度も速いのに列車本数が少なく自動車側も、まさか列車は来ないだろうとの意識が強いと思います。名鉄並行区間も一部区間にありますからコワイですね。名鉄さんの非常ボタンの復帰操作の方法を私は存じません。
鉄子おばさん
しなの7号
「やくもがめげた」踏切事故では、なんと乗客の死亡事故が国鉄時代にありました。381系最大の事故と言ってもよいと思います。先頭車は大破したとのことです。
貨車区一貧乏
踏切といえば、障害物検知動作で「非常ブレーキ」と「遮断棒折損」でした。
複々々線区の場合、踏切遮断棒を降ろすタイミングの難しさと踏切横断者のイライラ、両方の気持ちがわかりますので
莫大な予算がかかりますが、高架が一番いいのでしょうね。
それにしても、「非常ブレーキ」は何十回も扱いましたが、気持ちのいいものではありませんね(-_-;)
しなの7号
障害物検知装置の作動は、仕事以外でもよく経験しましたね。中京圏でも私鉄との並行区間の踏切ではそのようなことが、多々ありました。多くの場合国鉄の方が列車本数が少ないので、国鉄の方は大丈夫という意識で、横断車(者)にはバカにされているところがありました。
田舎の車掌ですと、車掌が列車を止めなければならないケースは首都圏の列車に比べ格段に少ないですが、そういう話も数少ない田舎の車掌の経験談として、いずれ機会があればアップしたいと思います。