毎月、その月に因んだ楽曲を1曲ずつ選んで語っています。選曲にあたっては個人的な志向や趣味に偏ります。昭和の時代に発表された曲が多くなると思いますが、必ずしも昭和のヒット曲とも限りません。なお、私は音楽や詩の世界にはまったく通じていませんので、作詞者が描いた世界とは外れたことを語ることもあると思いますがご容赦願います。楽曲や作詞作曲者歌手について知らないことやデータなどはWikipediaとCD等のライナーノーツを参考にします。
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2月の歌は、フォークデュオ「風」が歌う「暦の上では」としました。
暦の上では
作詞・作曲:伊勢正三 編曲:瀬尾一三
君が涙ポツンと 落した日 街では
もう春のセーターが 店先に並んでた
街はまだ冬の名残り 風は冷い
君が窓を開けて ぼくを呼べば
やっぱり 振り向いてしまう
君の涙が雪に変って ぼくの肩に落ちた
君から借りたノートを返したその後で
二言三言かわした言葉がぎこちない
「卒業」なんて言葉はとてもきらいさ
君と悲しみ 君と笑った 学生時代も終わり
ボタンダウンのシャツも そろそろ
着れなくなってくる頃
下りの汽車の時間が気にはなるけど
野球帰りの子供達の声
にぎやかな午後のひととき
暦の上ではもう春なのに
まだまだ寒い日がつづく
◆Youtube: https://www.youtube.com/watch?v=lOSoWwPDPtM
「風」はこの歌を作詞作曲した伊勢正三さんと大久保一久さんが1975年に結成したフォークデュオでした。この「暦の上では」は風のセカンドアルバム「時は流れて」のB面5曲目に入っていました。シングルカットされた楽曲ではなかったので、ご存じない方が多いと思いますが、私はこの曲が収録されたアルバムを何度聴いたことかわかりません。LPレコードは、のちにCDアルバム「風コンプリートベスト」を買ってから、他のアナログLPとともに手放したので、今は手元にはありません。
「暦の上では」は、その歌詞の内容が卒業ソングのように思えるので、2月より3月の歌としたほうがふさわしいのかもしれません。しかし「暦の上ではもう春なのにまだまだ寒い日が続く」というフレーズからは、立春が過ぎでもまだまだ寒い日が続く2月の風景が思い浮かびますし、「もう春のセーターが 店先に並んでた」というのも、季節を先取りするアパレル業界のことを思えば2月のほうがふさわしく思えてきます。「ボタンダウンのシャツもそろそろ着れなくなってくるころ」という歌詞からは、ボタンダウンのシャツにスタジャンかブレザーをまとっていた学生生活がそろそろ終わり、卒業して就職したら毎日ワイシャツにスーツを着て通勤する日々が始まることを表しているのでしょう。つまり3月の卒業式を迎える前の「にぎやかな午後」の街を、迫ってきた卒業による別れの切なさを感じながら歩いている情景が浮かびあがってきたのでした。
作詞作曲者である伊勢正三さんは「なごり雪」を作詞作曲されています。「なごり雪」については以前に【629】なごり雪の「汽車」で、その「汽車」について書いたことがありますが、この「暦の上では」にある「街はまだ冬の名残り」とか「君の涙が雪に変って ぼくの肩に落ちた」という歌詞からは、「なごり雪」のイメージが重なってきます。そうすると歌詞中にある「君が窓を開けて ぼくを呼べば」というその「窓」は、家や校舎の窓ではなくて汽車の窓ではないだろうかとか、「下りの汽車の時間が気にはなるけど」とあるので、それがどんな汽車で、それは作者が乗ろうとしている汽車なのか「君」が乗っている汽車なのかということも気になってきます。
伊勢さんの故郷である大分県の津久見をイメージすると、その汽車は日豊本線の列車でしょうか。画像はその日豊本線の汽車で、1973年に撮影したものです。アルバム発売が1976年1月で、まだ50系客車は製造される前になりますので、汽車のイメージはこういうものになるはずですが、「なごり雪」での汽車は窓の開かないブルートレインのイメージでした。私の地元の国鉄では、そのころすでに電化され、電車の時代になってはいましたが、汽車と言えば国鉄の列車を指し、電車は名鉄や北恵那鉄道のことというように使い分けていました。曲中の汽車は下り列車ということになっていますので、卒業を控えた時期に故郷へ帰る「なごり雪」の汽車に一層重なってきます。
軽快なアレンジは中島みゆきさんのプロデュースなどで知られる瀬尾一三さんによるものです。「風コンプリートベスト」のライナーノーツで伊勢さんは「暦の上ではのアレンジは、この当時では、画期的にオシャレだったようで、アレンジャーの瀬尾チャンは、会う人、会う人にラジカセで、この曲を聴かせていたそうだ」と書いておられました。アルバムが発売された年の春に自分が国鉄に就職したので、個人的にはこの曲のイントロを聴くだけで、そのころの自分の世界に戻ってしまいます。
◆参考にしたサイト等
Wikipedia:「時は流れて…」
◆SeesaaブログではJASRAC管理楽曲の歌詞掲載が可能とされています。
https://info.seesaa.net/article/409706387.html
https://www.jasrac.or.jp/smt/news/12/1212_1.html
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